このことわざは「一時しのぎのごまかす」という意味で使われていますが、本来、方便という言葉は仏が迷える衆生を悟りの境地に導くために、その人の素地に応じた手段を用いることを指しました。「方便」は『法華経』の「方便品」から出た言葉と考えられます。『法華経』にはさまざまな譬喩が使われていますが、いずれも巧みな方便で、仏教真理をわかりやすく教えてくれます。たとえば『法華経』の「譬喩品」に出てくる「三車火宅の譬(※)」。長者は仏、子供たちは迷える衆生、火宅は煩悩の世界です。このように方便の根底には「慈悲の心」がなければならないのです。

佼成出版社「The Yakushin」1993年2月号・暮らしの中の仏教より